そしていつか、答え合わせを共に③

千冬がタイムリープする話。ばじふゆ

「場地さん、朝ですよ、起きて下さい」


 遅刻しますからね! そう言われて、場地は慌てて飛び起きた。
 あの日、二人の長い冒険のような日々が重なり合ったその時。気づいたら二人とも、病室ではなく今いる部屋と同じ場所にいた。二人して困惑する中、どうやらお互いが先ほどまで秘密を打ち明け合っていたその人と変わらないことが分かってほっとしあったのが今ではすっかり笑い話になっている。
 今場地と千冬は、同じ家で暮らしているのだった。


「あー、ねみぃ……」
「朝パン焼きましたけど、卵入りますか……って、うわ!?」
「ちふゆぅ、……はよ」
「おはようございます」


 場地は寝起きでふわふわしたまま真っ直ぐ千冬の元へ向かうと、後ろから抱きしめる形で朝の挨拶をするのだった。中学生時代は家を出るまで会うことができなかったから、起きてすぐに顔を見れるのが嬉しくて仕方ない。
 どうやら、あの日を終えた二人は本来あるべき時代に戻ってきたようだった。それがどうしてなのかは、結局分からず仕舞いだ。けれど、万次郎が稀咲を東卍から破門にしたのがその理由の一つになるかもしれないと、そう思っている。過去が塗り替わったから、今も変えることができたのだろうと。まるで二人揃って長い夢を見ていた気分だ。
 ふと時計を見た場地が、あれと言う。


「アレ、今日いつもより早くねえ……?」
「今日は朝一でアメショの引き渡しだから少し早く出るって、昨日言いましたよね」


 確かに二人で眠りに付いて、その時にアラーム少し早めにしないとと千冬が言った気がする。


「あー、そうだったわ」
「啓太君……あ、高橋さんちの息子さんなんですけどね、先週退院したとかで、そのお祝いでずっと買いたかった猫を迎えるそうです」


 去年の春先に突然倒れちまって、長らく植物状態だったとか奥さんに聞いてます、つい最近目を覚ましたらしいですよと千冬は続ける。その話に、場地はえ? と思わず間の抜けた声を出した。


「……今、なんつった?」
「え? だから、アメショの引き渡し……」
「やっぱ何でもねえわ……」


 なんだか、どこかで聞いたことのあるような名前だったのでつい反応してしまった。もしかしてと思うことは確かにあったけれど、きっと深く掘り下げるころではないだろうと考える。忘れてくんね、と場地は言うと、目玉焼き、半熟がいいと伝えて先にテーブルに着くのだった。それを聞いて、千冬は笑顔でわかりましたと答える。冷蔵庫から卵を二つ出すと、手際よく割っていく。
 そこに、スマホの着信音が聞こえた。どうやら、場地のスマホが鳴っているらしい。


「おう、一虎。朝一からなんだよ……ハァ? 寝坊したから遅刻する? てめえ千冬に殺されんぞ」


 聞こえてきた不穏な言葉に、千冬は低い声でこう告げた。


「……場地さん、飛び出してでも間に合えって言ってください」
「おー、一虎ァ、そのままでいいから今すぐ家出ろってさ」
「イヤ、さすがにそんな鬼ではないっスけど!?」
「ハハ、んなビビんなよ。じゃ、またあとで」
「場地さん!?」


 まさか戻ってきた今、三人でペットショップ店員をしているなんて思わなかったけれど、毎日がこんなにも楽しい。笑顔の場地を見て、幸せだと千冬は思う。焼きあがった目玉焼きを持っていきながら、恋人に話しかける。


「オレらも早く食って、行きましょう」
「そーだな」


 いただきます。二人で手を合わせると、揃って食べ始めるのだった。

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