ペットショップイフのおはなし②

ばじふゆ+とらが仲良くペットショップやってるおはなし。

とある日の様子②



 その日のXJランドは、比較的に落ち着いている日だった。少々外の天気が良くなかったのも理由の一つかもしれない。ペットショップのお客といえば、当然ペットを飼いたいから来る客が思い浮かぶわけだが、愛犬や愛猫の餌を買いに来る人や、おもちゃを買いに来る人だって多い。
 餌やおもちゃが欲しい客は、当然のようにペットと共に足を運ぶのだ。ショップによっては子犬や仔猫を刺激しないようにペットは立ち入れない店もあるが、XJランドでは新しい家族のお迎えを待っている子たちがいるスペースは奥になっているから、その前までなら一緒に入れるようになっているのだった。
 そんなわけで、ペットを外に連れ出せない雨の日等は自然と客足が途絶えがちなのも致し方ないのだった。
 さて、そんな日であることを言い訳にして、一名。


「おーい、場地ィ」


 かれこれ、三十分以上は経過しているのではないだろうか、と少し前から彼の行動を目で追っていた店員は考える。XJランド一人目の店員、羽宮一虎は、さすがにと思ってもう一人の店員である場地圭介に声を掛けたのだけれど。


「ちょっと一虎君! 場地さんに話しかけないでください!」


 最後の店員かつ、雇い主に止められるという状況。
 松野千冬、またの名を場地圭介ファンクラブ第一号。


「は?! お前仮にも店長だろ?! そもそもお前が注意しろよ! アレサボりじゃねぇんすか」
「サボり? 注意ってなんスか、俺知らねエ」
「おい千冬、こういう時だけ昔の口調になるな」
「一虎君、ここでは千冬じゃなくて、店長っていつも言ってますよね」
「あーめんど! お前の脳内どうなってんだよ!」


 単純な話。客がいないことに、先日新しく店に迎えたばかりのマンチカンを場地がずっと愛でているのだ。一虎は正直、動物が好きかと問われればまあそれなりにという人間だが、場地と千冬は違う。知り合った当初から彼らが動物好きであることを知っている。特に場地の動物好きに関しては、この店が立ち上がるきっかけにもなっているくらいだから相当だった。
 そんな好きなら自分で飼えばいいじゃんと思うこともあるが、場地にとっての家族ペットは、共に暮らしている千冬が昔から飼っており、この店の名前にもなっている黒猫のペケJだけなのだと前に話していたのだった。
 

「オマエ、可愛いなあ!」
「一虎君、見てくださいよ。場地さん楽しそう!」
「イヤ、場地が遊んでるの見て楽しいのお前だけだから」


 千冬といえば、出会った当初から場地を慕い、場地圭介のために生きていると言っても過言ではない。推しが楽しんでいる様子を眺めているくらいの気分なのだろう。一虎には全くわからないけれど。
 なんで自分がツッコミ役になっているのだろうか、と一虎は少々溜息。
 一応彼らの名誉のために言っておくと、普段は真面目なのだ。三人とも元暴走族上がりの不良という、うっかり間違ってもここの常連には知られてはいけない過去を持っているけれど、それでも仕事に関してはとても真面目だし優秀だった。
 そもそも系列店等ではなくて個人経営でペットショップをやっている時点で中途半端にはできない仕事。それを夢で終わらせずに形にしているのは純粋にすごいこと。一虎は成り行きで協力することになったけれど、友人が作り上げたこの店が好きだ。


「でもそれとこれとは話が違ぇんだよ……!」
「大きな声出すのやめて貰えますか」
「なあ千冬、お前なんで場地のことになると頭のねじ緩むわけ?」


 思った事がうっかり口から漏れてしまったけれど、これくらいは許して欲しいと思う。だって、いつもだったら少し疲れたし休憩しようと思ったところで、「どこ行くつもりですか」なんて千冬にどやされるのだ。……この際、実は常であれば場地だって同様の事を聞かれていることがあるのは忘れておいて、あくまで店長が一人の店員を贔屓していることにしたいと思う一虎なのであった。


「お、こっちか? こっちか?」
「猫じゃらし振っててもカッケエ……」
「猫じゃらしなんていつでも使ってるだろ」
「一虎君、うるさいです。今集中してるんで」


 最初はケースの中を眺めているだけだった場地は、注意が飛んでこないのをいいことに、猫じゃらしを取り出して遊んでいる。まだ幼い仔猫は、当然のように興味深いのだろう。その先っぽを一生懸命追いかけていた。それを見て、思いっきり口元を緩ませる。


(猫にでれでれな場地と、その場地を見てときめいてる千冬、ね)


 二人とも完全にスイッチが入ってしまっているから、これは客でも入ってこない限りはこのままだろうと一虎は一人わかったフリをしてみた。時計を見て閉店までの時間を計算する。
 まあ、最近少しバタバタしていたし、たまには息抜きさせてあげるかと考えたその時。


「千冬、一虎。オマエらも遊ばねえ?」


 こっちに来いよ、というように右手をひらひらさせながら場地が二人を呼ぶのだった。ちらっと横を見ると、目を輝かせる千冬の表情が目に入る。


「いいんすか」
「オウ」


 その目を見ていると、かつての少年時代を薄っすら思い出してしまったものだから、何だか止めるのもかわいそうだなと思ってしまって。


「場地ィ、それ貸せ」
「ほらよ」
「あっ! ずりい!」
「千冬はこっちな」
「あざっス!」
 

 あとでこっそりクローズにしてもバレないかな、そんな風に思いながら一虎は場地から猫じゃらしを受け取るのだった。

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