ばじふゆ+とらが仲良くペットショップやってるおはなし。
本日のペットショップイフバジトリオ
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とある日の様子①
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時刻は間もなく二十時に差し掛かろうとしているところ。
今日も一日無事に終わりか、と三人各々で思っていたところに、ざらざら、と音がした。音が聞こえてきたその瞬間千冬と場地はほぼ同時にその方面に向けて顔を向けた。その間僅か一秒。振り向かれた先にいた一虎は四つの目からの視線を感じ、思わずぎこちなく首を動かして、形だけなんとかそっぽを向く。
言葉にしなくても、よくわかる状況がそこには広がっていた。
「あー、派手にやったなァ、一虎ぁ」
「はは、袋ン中全部からになってるじゃないですか」
「場地ィ、千冬ぅ~!」
指差しして笑う場地と、あーあ、という表情の千冬。
バレてしまった、いや、どう考えたって今の大きな音で気づかれないわけがないのだけれど。でも、あーあという二人の表情が目に入るのは、やっぱり多少なりともメンタルに来るものがある。思いっきり眉を下げて情けない顔をすると、千冬から一言。
「大の大人がこれくらいでみっともない顔しないでください!」
起きてしまった事は仕方がないという考えのようだ。一虎がわたわたしている僅かの間にほうきと塵取りを持ってきたようで、両手にそれぞれ持ったまま一虎の前に立つ。
本当に、これは不慮の事故だったのだ。と、言い訳を心の中で並べてみる。
いつも出しやすいようにと貯めているペットフードボックスがもう空になりそうだったので、閉店前だけれど今日はゆったりしていてお客はいないし、じゃあ今のうちに入れ替えておこうと思ったのだ。そして、今の状況。なんの不幸か、全部ひっくりかえしてしまったのだった。
粒状のフードは、勢いをつけたままかなりの広範囲へ散らばっていた。
「ほら立って。このままじゃ、掃除できないですから」
「ごめん……」
思わず、謝罪が口から漏れる。でも、謝った先の人物はきょとんとしているのだった。何で謝んの、と顔に書いてある。それがさらに、罪悪感を抱かせた。
そこに、揶揄が飛んでくる。
「にしても、派手にぶちまけたなア」
「オマエだってこの前やってただろ!」
「あれは半分だけだったし! オレここまではやったことねえよ!」
「ひっくり返してんのは場地も同じだろ!」
「一虎くーん、あっちに飛んでったの、拾ってください」
自分だけ店長に呆れられるのが嫌で、思わず同僚の先日の失態を出そうとするのだった。結果的に笑顔のまま命令されてしまったのだけれど。まあ、場地の失敗を出したところで、昔から場地さん場地さんと変わらない千冬なのだから、なんの効果もないと知っていたけれど。
一虎は座り込んでいたところから立ち上がって、言われた通りにする。
「千冬う、あっちは完了」
「ありがとうございます!」
場地の指がOKマークを作っているのが見えた。
「……これ、どうすんの」
「どうするって?」
さすがの一虎も、新品のフードを全てひっくり返したことに堪えた。床に落としたものを動物たちに食べさせるわけなんてないから、これは捨てることになるとわかっているけれど、思わず聞いていた。
これひとつロスしたところで経費に響くわけもないことくらい、当然わかっているけれど。
一瞬不思議な表情をした千冬だったけれど、一虎が尋ねようとしたことには、すぐ思い当たったようだ。
「何気にしてるんスか、らしくねぇッスね」
大人になってから少し丁寧さが増した敬語を、あえて崩して呆れたように話す千冬。かつての少年時代を思わせる笑みでこう返してくる。
「一虎ぁ、袋縛ンの手伝って」
そこにやってきたのは同僚かつ親友だ。オマエなんでこれくらいで泣きそうになってンのと言われて、気持ちが晴れた。
閉店間際のちょっとしたトラブル。気づいたら、20時を回っていたようだ。袋を持ってきた場地の後ろに、ブラインドを下ろす千冬が見えた。
こいつらとこの店で働けてよかったな、と、ミスした後に思うことではないかもしれないけれど、思う一虎なのだった。
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